リナニ・アリフィンは、気候変動の影響や開発によって沿岸の生態系が衰退しているインドネシア・ラジャアンパット諸島のウエスト・イェンサワイ村の住民です。故郷の大部分は、andoi と呼ばれる海草で覆われていますが、島の沿岸の侵食がゆるやかに広がり、墓地にまで及びそうな状況でした。リナニは海洋科学者のアルミラ・ナディア・クスマと共に、この村の10代の若者たちを率いて、海岸浸食から村を守ることを目的とした海草の移植プロジェクトをスタートさせました。
世界的に見ると、気候変動、汚染、沿岸開発、外来種の蔓延などにより、サンゴ礁や熱帯雨林に匹敵する勢いで海草が消滅しており、インドネシアは「海草の保全にとって重要な国」とされています。
1994年に発表された研究によると、インドネシアには3万平方キロメートルの海草藻場があり、藻場が世界で最も集中している国ではないかと考えられていました。しかし、2017年6月、政府関連の研究機関は、同国の海草面積はわずか1507平方キロメートルであるとしました。海草再生への取り組みは、気候危機が悪化する中、沿岸の生態系や地域社会に恩恵をもたらすと広く考えられています。
海草は浅い沿岸域に生息します。そこは、多くの種の幼魚にとって重要な保育の場となっています。また、一部の海草藻場は、ブルーカーボン(海や沿岸の生態系が吸収した二酸化炭素)を大量に蓄える役割を果たしています。海草藻場は、世界中の熱帯雨林よりも多くの二酸化炭素を根に蓄えることができ、また、ごみや堆積物を受け止め、海域をきれいにする役割も果たしています。
ウエスト・イェンサワイ村では、2021年3月からリナニのグループが、海草の苗を移植する作業に取り組んでいます。このグループは、国家開発計画の下、インドネシア気候変動信託基金(ICCTF)が世界銀行の資金援助を受けて組織化したもので、マングローブやサンゴ礁も含む島の沿岸生態系を回復しようという取り組みの一環です。技術的に工夫を重ね、移植の際のコスト削減とともに、植物性素材を使用することでプラスチック廃棄物のゼロ化を目指しています。また、2週間ごとに海草の成長を測定しています。
同グループは、設立当初は10代の女子16名からスタートし、現在では10代の女子19名と男子2名で構成されています。最初に女子を採用したのは、海洋保護について早くから学び、将来は海洋保護に携わる仕事を考えてほしいというリナニの願いからでした。
アルミラにとってこの海草移植グループは、植物保全の向上だけでなく、保全に携わる女性たちの明るい未来へ希望を抱かせるものです。彼女は、地方政府の支援を受けて、インドネシア全土でコミュニティ主導の保全活動が増えることを望んでいると言います。「リナニのような精神を持つコミュニティが増えれば、他の地域でも海草の保全が進むと思います」と海洋科学者のアルミラは話しています。
<参照情報>
A seagrass restoration project to preserve the past may also protect the future, Mongabay.com
https://news.mongabay.com/2022/05/a-seagrass-restoration-project-to-preserve-the-past-may-also-protect-the-future/