2022年7月5日、鹿島建設株式会社は、近年、全国の沿岸域で深刻な問題となっている藻場衰退の解決に向け、各地域に生育する固有の大型海藻類を、年間を通じて生産できる技術を開発したと発表しました。同社の葉山水域環境実験場(神奈川県三浦郡葉山町)では、人工漁礁に大量培養した配偶体由来の海藻の幼芽を取り付けた現地試験で、海藻が順調に生長していることが確認されました。
本技術開発の背景
沿岸域では、多様な海藻類が生育した「海中林」と呼ばれる藻場が、魚介類の餌場や産卵場、稚仔魚の育成場となって良好な漁場を作っています。しかし、地球温暖化による海水温の上昇や食害生物の増加などにより、藻場の衰退・消失が全国各地で深刻な問題となっています。
藻場の再生にあたっては、面積の大半を占める大型海藻類の再生が重要となります。従来の手法では、地域の大型海藻類の母藻の移植や海藻胞子の散布を中心としていましたが、近年では地域固有の大型海藻類が消失してしまい、海藻種の入手が困難なケースもありました。また、従来の大型海藻類の種苗生産では、母藻の入手時期が限られることも課題でした。
取り組みの特長と効果
鹿島は、藻場が消失してしまう前に母藻(胞子を放出できる成熟した海藻)を採取し、「フリー配偶体技術」を用いて大型海藻類の種苗生産をいつでも可能にする技術を開発しました。
「フリー配偶体技術」とは、大型海藻類の母藻が放出する胞子のオスとメスを採取し、配偶体として少量の液体中に長期間保存した後、随時、海藻の種となるオスとメスの配偶体を浮遊状態とすることで、同海藻類を短期間に大量培養する技術です。本技術により、地域の藻場再生計画に合わせ、年間を通じて大型海藻類の種苗を供給することが可能となりました。
「フリー配偶体技術」はこれまでも養殖分野では活用されてきましたが、今回の技術開発によって、アラメやカジメといった多年生大型海藻類を対象とした海中林保全にも適用できるようになりました。従って、地域固有の大型海藻類の遺伝的地域性に配慮した、持続的な保全が可能となります。
藻場再生試験
近年、葉山の周辺海域では大型海藻類の衰退が進み、浅場に生育するアラメは完全に消失してしまいました。そこで葉山町漁業協同組合の協力のもと、当地域から採取し、保存・培養していたフリー配偶体を用いたアラメの種苗生産を行い、洗掘防止機能を備えた人工漁礁と組み合わせるという藻場再生試験を実海域で進めています。
その結果、約10cmのアラメの幼体が、約半年で60cm以上に生長したことが確認されました。さらに、2022年6月にはメバルの稚魚やイカの卵が産みつけられていることなどが確認され、漁礁としての効果も発揮しています。
今後の展開
鹿島は今後、本技術による遺伝的地域性に配慮した海藻の種苗生産、生育環境解析、藻場造成基盤の設置およびモニタリング・評価を行うことによって、沿岸生態系の保全や漁業振興につながる藻場再生への展開を進めていく予定です。
<参照情報>
鹿島プレスリリース
https://www.kajima.co.jp/news/press/202207/5e1-j.htm
https://www.kajima.co.jp/news/info/20230213.html