ヘルシンキ大学は2024年6月27日、欧州委員会の共同研究センター(Joint Research Centre)と共同研究の結果、気候変動によって大型褐藻(以下、海藻)と海草の世界的な分布に大規模な変化が起こることが予測されると発表しました。
200種を超える海藻・海草に気候変動が及ぼす影響について、地球規模でモデル化し包括的な見解を示した初めての研究としています。また予測される変化は、海藻・海草が沿岸生態系に果たす重要な役割の観点から深刻であり、気候変動が海洋生物に及ぼす広範な影響を示す証拠になるとしています。
研究者らは、この大規模な分布変化が2100年までに起こると予測しています。海藻・海草の局所的な多様性は平均3~4%減少し、現在の分布は5~6%縮小するとしています。さらに注目すべきとして、海藻・海草にとって理想的な生息地が地球規模で大幅に減少(78~96%)することが予測されました。海域間での移動も起こり、北極・南極地域に拡大していく可能性があるとしています。
「沿岸地域に生息地を形成する海藻や海草など大型植物にとって、そこが生息地として著しく適さなくなることに危機感を抱きます。沿岸生態系の機能に深刻かつ広範囲な影響を世界規模で及ぼす可能性があるからです。注目したいのは、多様性の減少割合について、世界全体でみると海藻と海草で類似の傾向を示していますが、地域別でみると両者で著しく異なっていることです」と、同研究の主執筆者であるヘルシンキ大学のフェデリカ・マンカは述べています。
研究の結果、海藻では南米の太平洋岸が、海草ではオーストラリアの沿岸が、その多様性と生息地の損失が最も深刻になることが明らかにされました。さらに、気候変動の影響をより深刻に受ける大型植物の種、例えば大西洋に生育する海藻ラミナリアディギタータも特定されました。
海藻・海草の多様性に深刻な損失が予測された地域は、研究者らの予想に反して意外にも、熱帯地域ではなくむしろ欧州大西洋岸やバルト海といった中間緯度から高緯度の地域という結果でした。この結果は、こうした地域における世紀末の気候条件が、そこに生息する大型植物種の適応範囲を超える可能性を示唆するものであり、バルト海は、気候変動が生態系に影響を与えるスピードにおいて最前線に立つ地域だとしています。
生息地を形成するこうした大型植物が消失すると、他の種に連鎖的な影響を引き起こし、生態系全体の一体性を損ない、人間社会にとって重要な生態学的および社会経済的サービスが脅かされる可能性があることが示唆されています。そのため、こうした種の分布変化を予測することは、気候変動の影響についての認識を高め、それに応じた保全活動を促すうえで極めて重要であるとしています。
この研究結果は、英学術誌「Nature Communications」に2024年6月24日掲載されています。
<参照情報>
University of Helsinki
Projected loss of brown seaweeds and seagrasses with global environmental change
https://www.helsinki.fi/en/news/climate-change/projected-loss-brown-seaweeds-and-seagrasses-global-environmental-change
「Nature Communications」
Projected loss of brown macroalgae and seagrasses with global environmental change
https://www.nature.com/articles/s41467-024-48273-6