北海道電力株式会社 総合研究所(以下、ほくでん総合研究所)の関する取り組みについて
ほくでん総合研究所は、留萌市、森町、国土交通省 北海道開発局、北海道立総合研究機構など、北海道内の様々なステークホルダーと連携しながら、北海道沿岸のブルーカーボン生態系による二酸化炭素吸収・貯留について研究開発を行っています。今回は、北海道電力がなぜブルーカーボン事業に取り組むのか、また、今後目指している姿についてお伺いしました。
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<お話を伺った方>
北海道電力株式会社 総合研究所 環境技術グループ 橋田 修吉 様
Q. ほくでん総合研究所ではブルーカーボンに関する幅広い取り組みを推進されています。取り組みに込めた想いについて聞かせてください。
近年、海洋生態系による二酸化炭素吸収・貯留源であるブルーカーボンが国内外で注目されています。北海道は国内海藻生産量の約7割を占める大生産地であることから、2050年ゼロカーボン北海道の達成に向けたリソースとしてブルーカーボンのポテンシャルは非常に期待されています。
当社は、北海道を事業基盤として地域に根差して事業を展開するインフラ企業ですので、ゼロカーボン北海道への貢献、環境保全に向けた取組みは重要な責務です。当社の保有技術を活用し、北海道内のブルーカーボン事業が活性化するとともに、磯焼けにより減少する水産資源の復活の一助にもなれば、と考えております。

ブルーカーボンのJブルークレジットも含めたカーボンクレジット制度やその先にある気象変動対策の取り組みは、経済性と直結しておらず継続性を担保するのが課題となっております。しかし、ブルーカーボン事業をきっかけとして、水産業だけでなく農林酪農業など北海道の各基幹産業をエネルギーと環境技術でつなげることによって、北海道全体の市場価値を向上させるような取組みとなり、少しでも北海道への恩返しとなればとの想いで日々研究開発を進めております。
北海道電力が設立され、道内への電力供給を開始してから70年以上が経過(北海道に電気の灯りが初めてともってから135年が経過)しております。電気自体は目に見えず、お客さまにとって電気をいま使用しているという実感があまりないかもしれませんが、電力安定供給により「お客さまの暮らしを明るく豊かにする」という原点に立ち返り、ブルーカーボンをはじめとしたさまざまな研究課題にチャレンジしていきたいと考えています。
Q. ブルーカーボンに関する現在の取組みについて教えてください
現在、ブルーカーボンの実海域試験を行っているところは北海道内の6個所ですが、問い合わせをいただいている場所も含めると18〜19箇所に拡大する可能性があります。

ブルーカーボン事業は、地域の特性・特徴に応じた取り組みを、そこで生活する方々が主体となって継続することが必要です。したがって、実は、当社が主体となって推進している取り組みはありません。あくまでも技術支援というスタンスです。また、ブルーカーボン事業によって水産業における別のお困りごとも解決できるようなソリューションを意識しています。
例えば、ホタテ貝殻などの産業廃棄物の処理で困っている自治体に当社が長年培ってきた石炭灰のリサイクル技術を提供し、「ホタテ貝殻で藻礁を作れば、ホタテ貝殻の産廃処理費が削減でき、ブルーカーボン事業にもなるのでは?」というような支援を行っています。
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最初は、2022年の北海道留萌市との取り組みからスタートしました。留萌市では、北海道電力が研究開発していた「火力発電所の石炭灰のリサイクル技術」を応用し、藻礁(そうしょう)の開発を行いました。当初は石炭灰のリサイクル技術からスタートしましたが、第5次エネルギー基本計画において非効率な石炭火力発電所はフェードアウト(段階的な休廃止)の方針が示されており、近い将来石炭灰を安定的に供給することが困難になるかもしれません。
そこで、藻礁の原料を「木質バイオマスの燃焼灰」に置き換えたところ、技術的にも法令的にも「使えそうだ!」となり、木質バイオマス燃焼灰を活用した藻礁の開発を行いました。木質バイオマス燃焼灰を活用した藻礁は、一般的なコンクリート製の藻礁と比較して製造過程のCO2排出量が抑制できる他、リンやカリウムが多く含まれるため、海藻類の肥料分にもなります。このように、これまでに研究開発した技術を応用しながら、ブルーカーボンのクレジット創出を含む実証実験を行っています。
また、留萌市との取り組みを経て、森町や国土交通省 北海道開発局など、北海道内外から多くの問い合わせが来るようになり、様々な取り組みに繋がっていきました。
ブルーカーボンに関する取り組みは、地域それぞれの関心・課題が異なります。
「ホンダワラ系の海藻を養殖して、ニシンがたくさん訪れる海岸をつくりたい。」と考える人もいれば、「海藻の増殖は、漁の支障にならないか」と思う人もいます。海藻の増殖に抵抗感がある地域には人工干潟を推奨するなど、当社の技術を押し付けるのではなく、地域の特性や関わる人たちの考えを尊重した上で、「どのような技術開発をすればその地域の暮らしの豊かさに繋げられるのか」を考えながら、様々な取り組みを支援しています。
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Q. 今後、目指している姿について教えてください
繰り返しになりますが、ブルーカーボンおよびJブルークレジット制度は、国内外の関心を集めており、北海道は非常に高いポテンシャルを秘めています。ブルーカーボン事業は水産業に属しますが、水産業から農林酪農業にも繋がるバリューチェーンを構築するきっかけとなれば、北海道の各基幹産業全体の活性化が期待されます。
例えば、ホンダワラ系の海藻を牛に食べさせると、牛のゲップに含まれているメタンガスが減少するといわれています。メタンガスは温室効果ガスのため、さらなる気候変動対策となる可能性があります。
また、ホタテの貝殻は産業廃棄物として処理されますが、藻礁材料だけでなく農業の肥料にもなります。そして農業の残渣(ざんさ)は、海藻の養殖にも活用できます。
最終的には、それぞれの取り組みを推進する地域の方々のつながりが重要です。地域の方々がつながり、活躍していくためには、取り組みの情報発信も重要です。発信によって需要が拡大すれば、価値が高まります。今後、取組み全体にインセンティブを生み出していくためにも、情報発信には力を入れていきたいと考えています。
Q. 目指している姿の実現に向けて、今後必要になることを教えてください
当社は、北海道内の将来的なブルーカーボン事業に向けて、当社の技術を活用した様々な取り組みを並行して実施しています。例えば、「ホタテ貝殻など産業廃棄物をリサイクルした藻場造成」「電気防食(ぼうしょく)の技術を応用した海藻類の成長促進」「海藻陸上養殖によるブルーカーボン事業」など、様々な貢献を思案しています。
また、当社では洋上風力発電を含む最大限の再エネ導入構想を進めています。ただ単純に風車を洋上に建てるのではなく「洋上風力の風車を建設した結果、そのまわりの海が豊かになる」をコンセプトとして掲げ、研究開発・技術開発も行っています。ブルーカーボンに限らず、生物や生態系に関わる研究は時間軸が非常に長いですが、可能な限りスピード感をもって北海道に技術貢献していきたいと思っています。