
コンサベーション・インターナショナルは2025年5月6日、フロリダ国際大学と実施した海草に関する研究について発表しました。同研究は、世界各地の海草を保護しなかった場合、さまざまな点で非常に高いコストが生じる可能性を示唆しています。
世界各地の海草を保護することによって、12億トンの炭素排出を防ぎ、気候変動による損害を2,000億USドル以上も回避できる可能性があります。12億トンの炭素排出量は、米国の1億世帯の年間カーボンフットプリントに相当します。
同研究の筆頭著者で、フロリダ国際大学のヨハネス・クラウゼ(Johannes Krause)助教授は、「今すぐ行動しなければ、海草藻場の生態系を失い、気候変動による損害の影響を悪化させる危険性があります。今こそ、海草を最優先するときなのです」と述べています。
同研究は、61カ国の約3,240カ所での調査をまとめ、世界全体の海草による炭素貯留量に関して、これまでで最も総合的な見解を示しています。
重要な視点として挙げられているのは、「炭素貯留に関して言えば、すべての海草が等しく創られているわけではない」ということです。クラウゼ助教授は、「海草の生態系は、とても多様性に富んでいます。背が高く、長い葉と深い根系を持つ海草は、ほかの小さな種類よりもはるかに多くの炭素を貯留します」と語っています。
同研究では、世界全体の海草の炭素貯留量は、過去の推定よりも平均的に少ないことが分かった一方で、さらに正確で詳細な説明をしているため、炭素を最も多く回収する種類の生息地域を優先的に保護の対象とするのに役立つ可能性があります。
熱帯大西洋、地中海、南アフリカの海草藻場には最大の炭素ストックがあり、海草による炭素貯留量でみると、世界平均の最大4倍近くを貯留しています。こうした地域の海草藻場では、1ヘクタールで最大22台分の自動車の年間排出量に匹敵する炭素を貯留することができます。
「私たちのデータプールは、かつてないほど強固になり、海草にどのような能力があるのか、さらに明確に把握することができます。今では、海草をさまざまな地域のさまざまな種に分類することによって、最も効果的な行動がとれる取り組みに的を絞ることができます」とクラウゼ助教授は語っています。
研究者たちは、海草をはじめとする植生沿岸生態系の海底での被覆率は、わずか2%であるにもかかわらず、炭素貯留量は50%を占めていると推定しています。しかし、海草の研究は非常に難しいため、科学者たちは、海草が世界中にどれくらい存在するのか、まだ完全には把握していません。
同研究の共著者で、コンサベーション・インターナショナルの海洋科学担当バイスプレジデントであるエミリー・ピジョン氏は、「海草藻場が、炭素貯留だけでなく、沿岸コミュニティの保護に関しても非常に重要な役割を果たしていることは、紛れもなく明白です。適切な政策と投資を実施すれば、この海中の宝物と、それがもたらしてくれる気候変動対策としての恩恵を守ることができます」と述べています。
ピジョン氏によると、各国は気候変動に対処する計画に海草の保護を組み込むと共に、木やマングローブによって貯留された炭素の保護と引き換えに、資金的なインセンティブを提供する炭素市場のような、保護に関する資金調達の機会を取り入れなければならないと言います。
「海草は、マングローブなどのほかの沿岸生態系に比べて、炭素に関する資金面のイニシアチブで過小評価されています。世界中で海草の保護に投資すれば、海草の炭素貯留に関する潜在的な可能性を引き出すだけでなく、漁業や、浸食からの沿岸の保護を支え、水質を改善し、ひいては、人類のために地球と沿岸生態系を守ることにもなるでしょう」
<参照情報>
An overlooked climate ally is in deep trouble
https://www.conservation.org/blog/an-overlooked-climate-ally-is-in-deep-trouble