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2025.02.07
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種子を守り、藻場の再生へーアマモ種子バンクの取り組み

アマモ種子バンクの取り組みについて
特定非営利活動法人アマモ種子バンクは、沿岸の埋め立てにより大幅に減少してしまった藻場を回復・造成させるために、アマモの種子の採取や保存、アマモ場の造成に取り組んでいます。2003年の設立から、20年以上にわたって活動してきたアマモ種子バンクの皆さまの想いや、今後目指している姿についてお伺いしました。
http://www.amamobank.sakura.ne.jp/

お話を伺った方>
特定非営利活動法人アマモ種子バンク
理事長 出口一郎様
事務局長 芳田利春様

 

Q. アマモ種子バンクの活動を始めるに至った想いについて伺わせてください。

出口様

私は、子どもの頃から海の近くで育ちました。ほとんどの時間を海で過ごす子どもでしたが、海がどんどん埋め立てられていって、海に近づけなくなっていきました。「もっとアクセスしやすく、もっとみんなが楽しめる海を実現したい。」…その想いで、これまで活動を続けてきました。

芳田様

元々、マリコン(海洋土木)の会社に勤め、海洋環境の研究を行っていました。研究を進める中で、アマモが海にとって有益な資源であることを理解した一方、埋め立てによりアマモ場が激減していることに課題感を持っていました。「これを何とかしたい。アマモ場を元に戻していきたい。」…その想いで研究開発を進めると、ある方法でアマモが育つことがわかりました。

アマモを育てる前に、アマモの種が必要です。しかし、アマモの種は、生物多様性などの観点から、自治体の条例で採取に制約がかけられているケースも多々あります。

“アマモの種が必要だが、アマモの種子に関する活動は色々な制約によって縛られている”、そのような状況でアマモ場の造成を進めていくためには、公的機関としての活動が必要であるため、特定非営利活動法人としてアマモ種子バンクの活動をスタートしました。

アマモの種子(花枝)採取(江井ヶ島海岸)
通水海水水槽にける花枝の養生(江井島漁港)

Q. これまで20年以上にわたり活動していらっしゃいますが、活動の経緯や取り組まれていることについて教えて下さい。

出口様

実は、私と芳田さんは、同じ大学の先輩・後輩という関係です。NPOが立ち上がった時の初代の理事長が、私の指導教官でした。元々、私は海浜沿岸の研究を行っていたため、当時の理事長から「海のことをわからなければアマモがどう育つのかがわからない。理事長として活動を推進してくれ。」と言われ、私が理事長を務めることになりました。

設立当時は、海洋関係や水産関係の第一人者の方々にも参画してもらい、盛大な勉強会も行っておりました。しかし、2011年に東日本大震災が起こり、行政の予算が防災に回り、環境保全には予算が回ってこない状況になりました。予算が無くなる状況があり、勉強会の取りやめなど、活動は下火になった時期もありましたが、アマモ種子バンクとして初志貫徹をしながら活動を続けてきました。

また、アマモの種子の採取・保全のほかに、環境学習の機会を提供するために色々な地域を訪れました。しかし、地域や学校によっては環境学習の方針が異なっており、更には「環境学習を取りやめる」などの方針を立てた所もありました。アマモ造成を啓蒙していくために、「アマモ栽培のキット」を開発し、市民団体を通じて地域の方々に利用してもらうなど、環境学習に直接的に関わらずとも、環境学習に寄与するような活動も進めています。

種子の選別(江井島漁港)


出口様

以前は和歌山などまで範囲を広げて活動していましたが、現在は「明石市・江井ヶ島周辺の東播海岸(とうばんかいがん)」を中心に活動しています。

主には、アマモの種の養生・選別・保存を行っています。例えば、福岡県から博多湾のアマモ場造成の相談をもらい、博多湾で採取したアマモの種の養生を江井ヶ島で行っております。大飯町からは、小浜湾のアマモの種子の養生・選別・保管を委託されています。他にも、相生湾や大阪湾、播磨灘(はりまなだ)など、様々な地域のアマモ造成に資する取り組みを行っています。

また、啓蒙活動の一環として、地域の方々とアマモ場の生物調査も行っており、地曳網(じびきあみ)を使って、アマモ場にどのような生物がいるのかを子どもたちと一緒に観察しています。「アマモ場がある地域とアマモ場がない地域でどのように生き物に差があるのか?」「四季によって生息する生物に違いがあるのか?」などを10数年にわたって調査しながら、環境学習の場を提供しています。市の関係者や、家族連れで参加してくれる方々など、いろんな人に助けを借りながら活動しています。

地引網(江井ヶ島海岸)
取れた生き物の説明(江井ヶ島海岸)

Q. 今後、アマモ種子バンクが目指している姿について教えてください

山本様

アマモ種子バンクの最大の目的は、アマモ場の造成のために、アマモの種を必要とする方々に種を供給していくことです。

通常、植物を育てたいと思えば、植物の種苗を購入して育てることが出来ます。しかし、海の管理には様々な制約がかけられています。そのため、「アマモの種を採取します」「アマモ場を造成します」ということが簡単にはできません。自治体によってもルールや手続きが異なっているため「関係者が誰で、どんな調整が必要か?」なども複雑化しています。マニュアルが整備されていないケースも多いです。

また、「種を蒔けば育つ」というものでもありません。海浜の特性も理解したうえで、アマモが育つ場所なのかの見極めも必要です。加えて、地球温暖化の影響で海水温度も上がっています。海水温度が上がると、アマモの生育は難しくなります。

アマモは、地域によっても特性が異なるため、異なる遺伝子を持つと考えられています。生物多様性や遺伝子多様性の観点からも様々な考慮が必要ですし、地域を跨いで、生物多様性の選別ラインを超えた移植もできません。

様々なむずかしさを抱えているアマモ造成ではありますが、アマモ場の造成のために、種を必要とする方々に種を供給できるように活動を続けてまいります。

恒温・高湿庫にける保存(NPO事務所)

―――2022年、2023年と、「アマモパートナーシップ会議(江井ヶ島漁協、東洋建設㈱、アマモ種子バンク)」にてJブルークレジット認証も受けているアマモ種子バンク。アマモ場の造成に向けた難しさも多々ありながら、アマモ種子バンク設立の目的を初志貫徹する姿に勇気をもらいました。貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!

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