尾道市では、令和4年度から、脱炭素に向けた取り組みの一環として、浦島漁業協同組合と共同で、市沿岸地域に造成された干潟や藻場のCO₂吸収源の拡大や環境学習を推進するプロジェクトを推進しています。
今回は、尾道市環境政策課のご担当者様に尾道市の取り組みについてお話を伺いました。
参照:ブルーカーボン・オフセット推進事業「尾道の海のゆりかご(干潟・藻場)再生による里海づくり
https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/soshiki/15/56029.html
<お話を伺った方>
尾道市 環境政策課 ご担当者様
Q. 尾道市の「尾道の海のゆりかご(干潟・藻場)再生による里海づくり」がはじまった経緯について教えてください。
尾道では、アサリを中心に漁業がかなり盛んな時期がありました。
一方、ここ最近は海の栄養塩不足や、海水温の上昇による魚種の変化もあり、漁獲量が激減してきています。特にアサリが獲れなくなってきています。
同時に、干潟のアマモも減少しており、「水産資源の生態系において重要な役割を果たすアマモを再生し、豊かな海を取り戻したい」という浦島漁業協同組合の皆さんの強い想いがあり、里海づくりの事業がはじまりました。
尾道では、国土交通省 中国地方整備局により造成された人工干潟があり、浦島漁業協同組合が長年にわたって人工干潟の維持・管理を行い、干潟の再生活動に取り組んで来られました。
アサリの復活を目指すと同時に、ブルーカーボン効果が得られる事業としてプロジェクトを立ち上げ、「水産資源の回復」と「CO2の吸収量を増やす」という2つの目的に対して、令和4年から活動を開始しました。

Q. 当時は、どのような流れでプロジェクトが立ち上がったのですか?
尾道市では、令和2年に、2050年までにCO2(二酸化炭素)の実質排出量をゼロにする「ゼロカーボンシティ」を宣言していたこともあり、「市として何ができるか?」を模索していました。
いろいろと模索するなかで、JBEさんのJブルークレジットの制度を知ったことと、浦島漁業協同組合の強い想いがあり、プロジェクトが立ち上がりました。
まずは尾道市の皆さんに「水産資源の回復」と「CO2吸収」の取り組みを知ってもらうための、啓発的な活動としてスタートした形でした。
浦島漁協の組合長や皆さんをはじめ、色々な方々に勉強させていただきながら、プロジェクトの共通認識として「人の手をかけないと海はダメになってしまう。海を再生していくためには、多くの人の手が必要だ。皆で豊かな海を取り戻していくんだ。」「この取り組みは、尾道市や漁協だけではできない、多くの市民や企業に関心を持ってもらい、活動にも参加してもらう。そういう広がりを作っていくんだ。」という想いでスタートしました。

普段、環境政策課では、「尾道市でどれくらいのCO2が排出されているのか」の集計を行っています。
「2050年までにゼロカーボンシティを実現しよう」という動きの中で、尾道市のCO2の排出量を計算すると同時に、ブルーカーボンによってCO2が吸収できることにも魅力を感じていました。
Q. プロジェクトでは、尾道市と浦島漁協でどのような役割で動かれていたのですか?
プロジェクトは、浦島漁協と尾道市を中心に、その他の関係者と連携しながら進めています。
主な役割分担としては、実際の干潟での活動は浦島漁協が中心になり、Jブルークレジットの申請に向けた干潟のCO2吸収量の調査や認証の準備、クレジット販売に向けたPR活動などを尾道市で担当しました。
Q. 尾道市の取り組みをWeb上で見てみると、地域の方々や子どもたちと一緒に取り組むイベントもたくさんあって素敵だなと思います。地域の方々とはどのように連携しているのでしょうか?
クレジットを購入いただいた企業さんからの「体験型の活動・イベントを企画してほしい」というご意見を参考にしながら、地域の皆さんにも里海づくりの活動に参加いただき、想いを共有していくような取り組みを企画しました。
2024年6月には「アマモの種採りのイベント」を、2024年11月には「アマモの種まきイベント」を行いました。
クレジットを購入いただいた企業の方々がご家族連れで参加してくださったり、地元の市民の方々や、この活動に関心を持っている企業などが活動に参加してくれました。
また、イベントには福山大学の先生や学生にも協力いただいています。種を採取した後の選別作業を福山大学の学生が手伝ってくれたり、種まきセミナーの際には学生が生物観察の講師を務めてくれたり、多大な協力をいただいています。
産官学金(※金融機関)でも連携しており、金融機関のひろぎんエリアデザイン株式会社にも、クレジット販売のPR活動を協力いただきました。
里海づくりの取り組みを進める中で、企業さんから新たな技術の提案を受けたり、尾道市内の小中学生への環境学習を行なったり、地域の皆さんへ関心の輪を広げているところです。
その他にも海浜清掃活動や海に関係するスポーツイベントの際に、パネル展示を行ってブルーカーボンの取り組みを周知したり、より多くの方に活動に賛同いただけるように周知しています。

Q. 特に里海づくりに関する取り組みで特徴があれば教えていただけますでしょうか。
令和4年から里海づくりに取り組んでいるため、今年(令和7年)で4年目です。
アマモの種の採取や種まき、生物観察などのイベントでは実際にドローンで海の中の様子も見ていただくことで、イベントに参加した方々により興味を持っていただけている印象です。実際に海の様子を見てもらい、参加者の方々が生き生きと楽しそうに参加していただいているのは嬉しいですね。
CO2の吸収量の調査は、中国地方整備局(前述)が毎年行っている干潟の調査に加えて、復建調査設計株式会社に追加調査をしていただいています。
尾道市では、干潟のCO2吸収量と、アマモのCO2吸収量の両方を調査・計測しており、干潟の計測にはチャンバー法を用いているのが特徴的です。
Q. クレジット販売については、どのような取り組みを行いましたか?
クレジット販売も広げていこうとしています。いかに尾道市の活動を広げていけるかが重要になるので、例えば、2025年2月に行われた瀬戸田レモンマラソン(https://lemon-marathon.jp/)にて、大会参加者のCO2排出量の一部をオフセットするのに、尾道市のJブルークレジットを活用しました。
また、金融機関や漁協のつながりなどの中で、情報交換をしながらPRを行っています。
実際にクレジットを購入いただいた後、購入した企業さんのイベントで排出したCO2のオフセットにクレジットを活用いただいた事例もあります。
今後、どのようにCO2をオフセットできたかも周知していければと思っています。
Q. ここが難しかった・苦戦した、というポイントはありますか?
このプロジェクトで、4つの人工干潟でアマモが増えていくのかはまだまだ調査中です。
一部の地域ではアマモが増えていることを実感していますが、一部の地域ではアマモが減ったり、また復活したり…。自然の営みのなかで栄養塩投入や様々な活動をしていますが、4干潟全体でアマモが再生する実感がなかなか持てない部分もあり、引き続き取り組みと調査が必要です。
4つの干潟それぞれの地形や波の状況などがあり、手入れをして効果が出るところと、手入れをしても効果が感じにくいところと、地域差があります。

Q. 今後目指している姿について教えてください。
「水産資源の回復」「漁業活性化」に加えて、観光やイベントにも連携することで、市の活性化につながるような相乗効果を狙っていきたい想いがあります。
今後の取り組みに、市内の企業や市民の皆さんにも参画してもらい、さまざまな連携を図りながら活動していきたいです。
編集後記
尾道市では、産官学金連携に加え、地域の方々とも連携をしながら里海づくりを進めているのがとても印象的でした。
海水温の上昇や栄養塩不足など、海の環境も変わり続ける中で、行政や漁協、企業、大学、市民が一緒に手を動かす——このプロジェクトのような姿がこれからますます大切になっていくのだと感じます。
貴重なお話を伺わせていただき誠にありがとうございました。


