2022年4月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開かれます。ここでは2030年までに生物多様性を回復軌道に乗せることを意味する「ネイチャー・ポジティブ」をミッションとした、生物多様性に関する世界目標が採択される見込みです。
企業には気候変動対策と同時に、生物多様性保全についての情報開示や目標設定が厳しく求められていくなか、いち早く「ネイチャー・ポジティブ」を目指そうと動き始めている企業があります。商船三井グループ(以下、商船三井)は、インドネシアでマングローブの再生、保全に取り組んでいます。
マングローブが結ぶつながり
商船三井は、同社がチャーターしていたWAKASHIO号が2020年のモーリシャス沖で起こした油濁事故を契機に、現地の自然保護・回復プロジェクトを進めています。プロジェクトを通じて、特定非営利活動法人国際マングローブ生態系協会(以下、ISME)からマングローブの効果や重要性を学んだことが、ネイチャー・ポジティブを目指すようになったきっかけです。2022年1月7日、ISMEが技術指導を行っているワイエルフォレスト社(福岡市)と共同で、ブルーカーボン・プロジェクトに参画することを発表しました。
▼株式会社商船三井 プレスリリース
インドネシアにおけるマングローブの再生・保全事業に参画
~海の豊かさを守る ネイチャー・ポジティブ企業を目指して~
今回の共同プロジェクトでは、活動期間を30年と定め、ワイエルフォレスト社が2013年からインドネシア南スマトラ州で取り組んでいる約14,000haのマングローブの保全活動に加え、新たなマングローブの植林活動を行います。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によれば、世界の温室効果ガス排出量の11%は森林破壊や森林劣化、山火事などの影響と言われています。放っておくと進んでしまう森林劣化を防ぐため、既存の14,000haのマングローブに対して適切な保全活動を実施することで約500万トンのCO2排出を抑制します。
新たな植林については、およそ9,500haの裸地を活用し、約600万トン のCO2を吸収・固定します。加えて、国際的なカーボンクレジット基準管理団体Verraによる認証を受けられるよう、手続きを進めています。
マングローブで目指す人と自然の共生
亜熱帯の陸と海の境界に生息するマングローブは、陸域の森林と比べても単位面積あたりのCO2吸収量が多いだけではなく、「命のゆりかご」と呼ばれ多くの生態系を育んでいると言われています。
また、高波や津波を減衰させることから、沿岸に暮らす人々を守る役割もあり、気候変動への適応の観点からも注目されています。
本プロジェクトでは、マングローブそのものの再生・保全活動に加え、「シルボフィッシャリー」によるエビや魚の養殖にも取り組みます。「シルボフィッシャリー」は「Silviculture(造林)」と「Fishery(漁業)」を組み合わせた造語で、養殖池にマングローブを植林し、自然に近い状態でエビや魚を育てる手法です。植林したマングローブが水面に落とす葉に餌となるプランクトンが集まることで、飼料や投薬が不要となり、費用があまりかからないため、地域住民の暮らしの向上につながります。
このようにマングローブが持つさまざまな特性を生かし、人と自然が共生する社会の実現を目指していきます。
商船三井グループは、「海洋・地球環境の保全」「地域社会の発展と人材育成」などのサステナビリティ課題を特定し、2021年6月に環境ビジョンを改訂し、海運企業の中でもいち早く2050年までのネットゼロ目標を掲げました。マングローブを活用した取り組みをどのようにビジョン実現につなげていくのか、今後の展開が楽しみです。
(ご参考)商船三井グループ 環境ビジョン2.1
https://mol.disclosure.site/ja/themes/132