近年日本各地の海で藻場が消失する「磯焼け」が急速に広がり、魚介類の生息場だけでなく、産卵場所の減少も引き起こす大きな問題となっています。「磯焼け」の原因の一つは、森林伐採や護岸整備などにより、藻類の生育に必要な栄養分である鉄分が減少していることであると言われています。
鉄鋼メーカーの日本製鉄株式会社(以下、日本製鉄)では、鉄の製造時に副産物として発生する鉄鋼スラグを藻場再生に生かそうと、研究開発を推進。2004年から海での実証実験を重ね、鉄鋼スラグを腐植物質と混合した鉄分供給ユニットが藻場の再生、維持に効果があることを確認しました。
日本製鉄では更に、育てたマリンバイオマス(海藻)でCO2を吸収させ、炭化することで製鉄に利用できれば、自社のカーボンニュートラルを実現できると考えました。製鉄所は臨海にあるので、いわば「バイオマスの地産地消」です。2021年日鉄ケミカル&マテリアル、金属系材料研究開発センターと共同での研究開発を始めました。
海藻をカーボンニュートラル材として生産する研究は、世界でも例がないと言われています。3社の取り組みは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/ブルーカーボン(海洋生態系による炭素貯留)追及を目指したサプライチェーン構築に係る技術開発」に採択され、国家的プロジェクトとしても注目されています。
藻場消失を目の当たりにし、海の豊かさを取り戻すことから始まった「鉄」の研究は今も続き、加えて、育てた海藻を炭化し、製鉄利用することでカーボンニュートラル化させるという新たな展開が進んでいます。炭素循環による海の生物多様性保全とカーボンニュートラルによる気候変動対策の同時実現に期待しています。
▼日本製鉄株式会社 ニュースリリース
マリンバイオマスの多角的製鉄利用に資する技術開発に着手