Initiatives

日本・世界の取り組み
2023.06.27
Share x facebook

ベリーズ:マングローブの保護・再生によるコベネフィットの価値を定量化

中米の小国ベリーズが、気候変動を遅らながら、経済を成長させ、地域の安全性を高めていく道を切り開こうとしています。

スタンフォード大学が主導する研究により、ベリーズの海岸沿いのマングローブ林の価値を、炭素貯留量だけでなく、観光や漁業への付加価値、さらに沿岸災害リスクからの保護という観点から定量化し、その価値をもとに保護と再生の目標を設定する新しいアプローチが発表されました(2023年6月1日科学誌『Nature Ecology and Evolution』に掲載)。

米国をはじめ主要な沿岸諸国ではこれまで、ブルーカーボン戦略というものがほぼ見過ごされてきました。それは、沿岸生態系が炭素をどれだけ貯留できるかや、経済および沿岸保護などの他分野へのコベネフィット最大化のために、この戦略をどの場所で実施すべきかの計算が複雑であることが一因とされています。

本研究では、ベリーズの土地被覆データとメキシコのフィールド評価を用いて、炭素貯留・隔離を定量化しました。さらに、さまざまな場所の現在および将来の保護・再生シナリオにおいて、マングローブが提供する関連サービス(ロブスターの繁殖場など)をモデル化し、沿岸の洪水リスク軽減・観光・漁業へのコベネフィットを定量化しました。

その結果、地域によっては比較的小規模の再生で観光や漁業に大きな利益をもたらす場合があること、その一方で再生をした場合、土壌などに炭素が貯留されるまで時間がかかるため、既存の森林保護に比べると初期段階は貯留量が少ないことが確認されました。

もうひとつの重要な点として、マングローブの面積が増加し続けると、ある時点で炭素貯留以外の利益の増加率は減少し始めることが確認されました。

この変曲点を予測すれば、生態系保護と沿岸開発の両立を最も効果的に行う方法を決定できるとしています。同様に、コミュニティへのコベネフィットを最大化するには、どこでブルーカーボン戦略を行うべきかを特定すれば、地元支援の強化に役立つとしいています。

こうした研究結果をもとに、ベリーズは「国別削減目標(NDC)」におけるブルーカーボン目標を更新し、2030年までにマングローブ林12,000haの保護と4,000haの再生をそれぞれ追加することを約束しました。

この取り組みが実現すれば、何百万トンもの炭素を貯留・隔離するだけでなく、ロブスターの漁獲量が66%も増加し、年間数百万ドル規模のマングローブ観光を生み出し、少なくとも30%以上の人々の沿岸災害のリスクを軽減できるとしています。GDPがニューヨーク市の年間予算のおよそ2%に相当するこの国にとってこれらは有意な数字です。

「ベリーズの事例は、自然がもたらす多くの恩恵を空間的に定量化したり、国の気候政策や投資に役立てたりできる実践的な方法を示しており、開発銀行や各国の指導者らとともに世界各地に展開する準備は整っています」と本研究の共同著者で、スタンフォード自然資本プロジェクト事務局長のメアリー・ラッケルシャウスは述べています。


<参考情報>
Quantifying mangroves’ value as a climate solution and economic engine
https://news.stanford.edu/2023/06/01/mangroves-value/

科学誌『Nature Ecology and Evolutionn』
Evidence-based target setting informs blue carbon strategies for nationally determined contributions
https://www.nature.com/articles/s41559-023-02081-1

ブルーカーボンに関する取り組み事例