沿岸生態系の回復が、海洋酸性化の抑制と二酸化炭素のさらなる永続的な回収につながるという新たな経路が、米ジョージア工科大学および米イエール大学の研究者らによって提案されています。
2023年5月29日、英科学誌「ネイチャー・サステナビリティ」に掲載の論文”Ocean alkalinity enhancement through restoration of blue carbon ecosystems(ブルーカーボン生態系の回復による海洋アルカリ性の向上)”にて発表されました。
<有機炭素と無機炭素>
炭素成分は、大きく有機炭素と無機炭素に分けられます。二酸化炭素は、生物内に吸収されると有機炭素となり、それが海底に埋もれると永続的な除去に繋がります。無機炭素は、海水の重要な溶存成分として存在し、現在人間活動によって排出された炭素のおよそ30%は溶存無機炭素として海水が貯留しているとされています。
二酸化炭素は、有機炭素として貯留された場合、攪乱によって大気中に再分散する可能性がありますが、無機炭素の場合はその耐久性がはるかに高いと期待されています。
沿岸生態系の再活性化に関する研究はこれまで、有機炭素の堆積による炭素除去に注目してきましたが、無機炭素の形成による炭素除去の可能性については検討されてきませんでした。
<炭素吸収と海洋酸性化への対応>
二酸化炭素が気候変動以外に及ぼすもうひとつの大きな影響は、海洋の酸性化です。多くの海洋生物に深刻な影響を及ぼす可能性がありますが、二酸化炭素を無機炭素として海水に貯留することで海洋酸性化の緩和にも役立つ可能性があるとしています。それは、無機炭素として炭素を回収する化学的プロセスに海水のアルカリ化が関係しているからだとしています。
<炭素回収のモデリング>
沿岸生態系を回復させることが、無機炭素の回収にどれほど有効かを探るため研究者らは、海底の個体粒子・生物・海水が複雑に混ざりあった堆積系の化学と物理を示す数値モデルを構築しました。このモデルにおける重要な進歩は、沿岸生態系を回復することで得られる、潜在的な利益と有機・無機炭素循環への影響を具体的に追跡することだとしています。
「我々は、極めて広範囲のシナリオにおいて、ブルーカーボン生態系が、溶存無機炭素として耐久性のある二酸化炭素の除去につながることを発見した」と、本研究の上席著者でイエール大学の地球惑星科学教授であるノア・プラナフスキー氏 は述べています。
また、同シナリオにおける最も注目すべき点として、局所的な海洋アルカリ性の顕著な向上が示唆されたとしています。
この研究は、ブルーカーボン生態系の回復プロジェクトを押し進めるさらなる動機付けと、こうした生態系の回復を奨励する規制や経済に無機炭素除去を組み込む ための基礎を提供するものだとしています。
<参照情報>
Mitigating Climate Change Through Restoration of Coastal Ecosystems
https://research.gatech.edu/mitigating-climate-change-through-restoration-coastal-ecosystems
科学誌『Nature Sustainability』
Ocean alkalinity enhancement through restoration of blue carbon ecosystems
https://www.nature.com/articles/s41893-023-01128-2