国連の機関誌『UNトゥデイ』は、2023年4月号にマーティン・コーリング氏(ワールド・オーシャン・イニシアティブ)による「2023年がブルーカーボンの年になりうる3つの理由」と題する論考を掲載しました。ブルーカーボンの動きを考える上で重要な論考ですので、その概要を紹介します。
「2023年がブルーカーボンの年になりうる3つの理由」の1つ目は、自然を基盤とした解決策(NbS)への評価です。ロックフェラー財団の調査によると、現在、気候変動対策に必要な資金のうち、達成されているのは約16%だけです。この差を埋める方法のひとつが、費用対効果の高い自然を基盤とした解決策(NbS)への投資です。世界資源研究所提供のデータによると、自然を基盤とした解決策(NbS)によるインフラは、従来の人間が作ったインフラよりも50%安価であると推定される一方、建築環境の脱炭素化、気候レジリエンス、雇用創出といった付加価値を、28%多く提供します。
2つ目は高品質のカーボン・クレジットへの需要です。カーボン・クレジットについては、認証された多くのカーボン・クレジットの品質に大きな問題があることをジャーナリストが明らかにしています。多くが、本当の意味での炭素削減にはなっていない「幻のクレジット」であることが判明したのです。そのため、高品質のカーボン・クレジット、特に海洋の自然資本に基づくカーボン・クレジットを求める動きが強くなる可能性があります。
3つ目の理由は、生物多様性の世界的枠組みをめぐる最近の動きです。2022年末にモントリオールで開催された国連の生物多様性条約国際会議(COP15)で合意された取り決めには、海洋の大規模な保護が含まれています。特に重要なのは、2030年までに沿岸および海域の少なくとも30%を保護することに各国が合意したことです(30 by 30目標)。この合意には法的拘束力はありませんが、海洋の自然資本を保護するための大きな前進の舞台が整いました。
つまり、各国が掲げる気候変動と生物多様性の目標は、ブルーカーボンの力を活用する方向になっているのです。その上、海洋汚染に対処する緊急の必要性は、ブルーカーボンへの投資を促すさらなるインセンティブを生み出しています。
ブルーカーボンへの期待の高まりと見る目の厳しさが増していることがわかります。私たちブルーカーボンネットワークも、そういったことも念頭に置きながら、日本での各地の取り組みや関連する技術をつなげ、推進していきたいと思います。
<参照情報>
Three reasons why 2023 could be the year of blue carbon
https://untoday.org/three-reasons-why-2023-could-be-the-year-of-blue-carbon/