2023年5月11日、全球森林観測イニシアティブ(GFOI)プレナリー2023に登壇したパネリストたちは、「ブルーカーボン生態系プロジェクトの質は、環境利益の定量化だけではなく、優れたガバナンス、大きな社会的影響、公平な利益配分、コミュニティの支持によって判断するべきである」という重要なメッセージを発表しました。
セッションのモデレーターである国際林業研究センター(CIFOR-ICRAF)の主任科学者、ダニエル・ムルディヤルソ氏は、「ブルカーボンプロジェクトの成功は、最終的には地域コミュニティの支持、賛同、そして長期的な行動変容に基づく持続可能性によって評価される」と述べています。
同氏の考えでは、ブルーカーボン生態系は、気候変動に対する自然ベースの解決策の重要な要素です。これらの生態系の劣化や喪失を防止し、回復させることで、二酸化炭素の回収と貯留を増加させると同時に、地域コミュニティに収入をもたらし、景観を改善し、住民のレジリエンスを高めることができます。
例えばインドネシアでは、336万ヘクタールのマングローブが、違法伐採や、水産養殖、プランテーション、インフラ需要、海岸埋め立てなどによる用地転換といった脅威に直面しており、マングローブの再生計画が実行されています。しかし、こうしたプロジェクトは技術面および資金面の課題を抱えています。
まず技術面の課題として、こうしたプロジェクトでは高解像度の衛星画像を活用してデータを作成し、マングローブ再生が可能な地域を特定することが重要ですが、小規模国や小さな島国はたびたび能力不足によるハードルに直面します。そこで、国際連合食糧農業機関(FAO)とザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)は、マングローブ林のマッピングとモニタリングにおいて各国が最新技術を活用できるよう、キャパシティ・ビルディングを支援するマニュアルを作成しました。そこでは各種画像を用いて、マングローブの面積、構造、状態、変化を推定するケーススタディを紹介しています。
また資金面での課題について、国際自然保護連合(IUCN)の海洋プログラムオフィサーであるメリッサ・アベデラヒム氏は、生物多様性保全の資金調達と世界の生物多様性保全ニーズとの間には、大きな投資ギャップが存在すると述べています。
そんな中、ブルー・ナチュラル・キャピタル・ファイナンス・ファシリティ(BNCFF)では投資可能なBNCプロジェクトを支援しており、ブルー・カーボン・アクセラレーター・ファンド(BCAF)では、発展途上国におけるブルーカーボン再生・保全プロジェクトを支援し、民間資金調達への道を開くサポートをしている、とアベデラヒム氏は述べています。これらの基金で合意されたプロジェクトでは、予算の60%以上はその土地の所有者、利用者、管理者を含む地域のステークホルダーに恩恵をもたらす目的で使用されなければならない、としています。
自然再生や生物多様性の保護には強い関心が寄せられているにも関わらず、そうした分野に民間投資基金がなかなか流れず、生物多様性の喪失に歯止めかけられていないのが現状です。
その理由のひとつは、比較的安価な再生可能エネルギークレジットに比べ、生態系回復への投資コストが高いということです。民間セクターから投資を受けるためには、炭素の豊富な生態系に重点を置いたプロジェクト、堆積物中の炭素の適切な会計処理、生物多様性の収益化、コミュニティの利益の確保が必要です。
<参照情報>
「ブルーカーボンの成功には地域コミュニティの支持が不可欠」(英語)
https://pfbc-cbfp.org/news-partner/CIFOR-Community.html
Global Forest Observations Initiative (GFOI) Plenary 2023(英語)
https://www.fao.org/gfoi/plenaries/plenary-2023/en/
上記プレナリーにおけるブルーカーボン関連プレゼンテーション(英語)
https://www.fao.org/3/cc6684en/cc6684en.pdf
https://www.fao.org/3/cc6687en/cc6687en.pdf