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2024.03.27
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モントレーベイ水族館:ラッコの増加がケルプの森の劣化を防ぐという研究発表

Photo by Kedar Gadge on Unsplash

カリフォルニア州沿岸で、絶滅寸前だったラッコの個体数が増えたことにより、ケルプの森が広がり、極端な海洋温暖化などの環境ストレスに対するレジリエンスが高まったという研究発表が、2024年1月18日、気候変動ジャーナル「PLOS Climate」に掲載されました。

同州モントレーベイ水族館の研究者らによるこの発見は、絶滅の危機に瀕するラッコの保護及び回復の重要性を強化するとともに、カリフォルニア州沿岸、おそらくその先のケルプの森も回復するための自然に基づく解決策の可能性を浮き彫りするものだとしています。

研究によって、1910年から2016年までの100年にわたり、ケルプキャノピー(多数の大型藻類の葉状体が海面近くで層を形成し、それらが水面に見えていて海底を隠している状態)が局所的に劇的な変化を示したことが明らかになりました。1800年代、毛皮を得るために狩りの対象となり絶滅寸前となったラッコが生き残ったカリフォルニア唯一の地域である中央沿岸において、この間、ケルプの森が大幅に増加したのです。

100年というスケールでみると、ラッコが中央沿岸のケルプの森に与えた好影響は、カリフォルニア州北部と南部のケルプの森の消失をほぼ補うものであり、結果的にこの間の州全体におけるケルプの森の減少はわずかだったとしています。

研究者らは、1900年代初頭まで遡るケルプの森に関する過去の調査を使い、年次変化や調査方法の違いなどを修正しながら、キャノピーの広がりや炭素貯留量などを詳細に推定しました。航空・衛星写真など現代の調査方法によるデータが入手できる以前の60年以上前まで遡り、カリフォルニアのケルプの森の長期的な傾向を調べることができたとしています。修正した古い過去の推定値を現代のデータセットと比較し、機械学習のフレームワークを用いて、過去1世紀における変化の主要因が評価されました。

この100年間でのケルプキャノピーの減少は、州全体としてわずか6%でした。ただし、地域的な変化はもっと大きかったとしています。同州沿岸部の北部と南部でそれぞれ63%と52%減少していました。しかしそれとは対照的に、中央沿岸部ではほぼ全域で増加し、推定面積が56%増加したとしています。

「我々の研究は、過去1世紀の間にカリフォルニア沿岸にラッコが再生息した場所では、ケルプの森がより広がり、そして気候変動に強いことを示しました。ラッコが生息しなくなった場所では、ケルプの森は劇的に減少しました。事実、ラッコの生息密度がこの100年間というスケールで、ケルプキャノピーの面積の変動を予測する最も強い要因であることがわかりました」と、モントレーベイ水族館ラッコ・プログラムのシニア研究生物学者であり、同論文主執筆者のテリ・ニコルソン氏は語っています。

一方で、気候変動による極端な海洋熱なども別の要因として特定されました。デューク大学の研究科学者であり、同研究の上席著者であるカイル・ヴァン・ホータン氏は、「慢性的な温度ストレスはケルプの成長と健康を損い、ケルプの森にとって大きな問題です。生態系は複雑であり、このような極端な変化を生き抜く最善の機会を与えるには、すべての構成要素が必要です。ラッコは確かに太平洋のケルプの森に極めて大きな影響を与えています。今回のような歴史的な研究は、こうした長期にわたるダイナミクスの重要な実証です」と語っています。

同研究は、ラッコを過去の生息域に戻すことで、カリフォルニア沿岸のより多くの場所でケルプの森を回復させ、その恩恵を取り戻せることを示しているとしています。


<参照情報>
Monterey Bay Aquarium study shows sea otters helped prevent widespread California kelp forest declines over the past century
https://www.montereybayaquarium.org/newsroom/press-releases/study-shows-sea-otters-helped-prevent-widespread-California-kelp-forest-declines-over-the-past-century

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