英プリマス海洋研究所は2024年5月22日、同研究所の科学者を含む国際研究チームが、海洋の炭素貯留において海藻藻場が大きな役割を果たしていることを明らかにしたと発表しました。
研究によると、世界の海藻藻場は毎年およそ5,600万トン(1,000万~1億7,000万トン)の炭素を、大陸棚を越えて水深200メートル以深の深海に移動させていると推定しています。これは藻場が捕捉する炭素のおよそ15%に相当し、そのうち400万~4,400万トンが少なくとも100年以上深海で隔離されたままの可能性があるとしています。
科学雑誌『Nature Geoscience』に発表された同論文では、海洋の炭素吸収源として大型藻類が大きく貢献していることが注目されています。そして、過去および現在も進行中の藻場の消失を含む、海藻藻場の分布および現存量における大規模な変化が、炭素吸収源としての能力に影響を与える可能性があることも示唆しています。
海藻藻場は、主にケルプやロックウィードといった大型褐藻類から成り、地球上で最も広範囲にわたる生産性の高い植生沿岸生態系のひとつとされ、海洋生物多様性のホットスポットでもあります。海藻は効率的に炭素を取り込み、藻体内でバイオマスとして貯留します。その一部が深海に移動することで、海洋の炭素吸収源となる可能性があるとしています。
水深200メートル以深への海藻による炭素移動量は、海洋の炭素吸収源の3~4%に達すると推定され、この結果は、依然として海洋植生による貢献が考慮されていない世界の海洋炭素収支に、大型藻類を組み入れる必要性を明確に示すものだとしています。
研究チームは最新の全球海洋モデルを用いて、炭素を蓄えた海藻が沿岸から深海に至る動態の追跡を行いました。深海の吸収源に達する割合は、深海までの輸送時間と分解率を比較することにより推定されました。
こうした研究により、炭素移動のホットスポットも特定されました。広範な海藻藻場のある地域、渓谷や深海に近い狭い大陸棚のある沿岸地域などです。また、オーストラリア、アメリカ、ニュージーランド、インドネシア、チリなどの海藻藻場に高い炭素除去能力があることも確認されました。
沿岸海洋は、世界的に重要な炭素吸収源であり、生物多様性を維持しながら気候変動を緩和し、パリ協定の目標を達成するための対策の要であるとしています。
同研究の共著者で、プリマス海洋研究所の海洋・気候変動を専門とする生態学者のアナ・ケイロス教授は次のように語っています。
「この研究は、こうした重要な生息地に対して保護管理が必要であることを強調しているだけでなく、地球システムモデルにおける炭素の推定値をより精緻化することにも役立ちます。次の段階は、海藻のデトライタス(残骸)、つまりその中に閉じ込められた炭素がどこに堆積し得るのかを考察し、海洋の炭素循環の全体像を把握することです」
<参照情報>
Seaweed forests are an overlooked component of oceanic carbon storage
https://www.pml.ac.uk/News/Seaweed-forests-are-an-overlooked-ally-in-oceanic
「Nature Geoscience」
“Carbon export from seaweed forests to deep ocean sinks”
https://www.nature.com/articles/s41561-024-01449-7