オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)、ユネスコ、ドイツのライプニッツ熱帯海洋研究センター(ZMT)、アジア工科大学院の研究者らは2024年4月4日、マングローブの保護・再生と化石燃料の代替となる安全かつ再生可能な木材の役割を両立させるアイデアとして、海洋に浮かべるマングローブの実現可能性について報告しました。
自然の環境でマングローブが見られるのは、熱帯と亜熱帯の潮間帯に限られています。マングローブは、陸地でも、ずっと海水に覆われている場所でも生育することができません。
そんなマングローブを海に浮かべることができたらどうでしょう? そうすると、現在のマングローブに適している狭い範囲に広大な海水面が加わり、大きく広がることになります。
マングローブを海水面に浮かべ、海上での生育が可能になれば、理論上では、大量の炭素を隔離しながら、食料関連や漁業の再構築の一助となり、自然のブルーカーボン生態系を再生させることができます。
自然の環境では、日常的に淡水と海水の両方にさらされる必要があるマングローブの種もありますが、ヒルギダマシ(Avicennia marina)やオオバヒルギ(Rhizophora mucronata)のような種は、一生の間、そのままの濃度の海水に耐えることができます。前述の研究者らは2014年、「こうした種は、エネルギーを消費する淡水の灌漑やポンプによる揚水や排水をしなくても、海水面で生育し得る」というエビデンスを提供しました。
浮くマングローブは、浮き桟橋の緑化のために、実験場でテストされています。より大きな規模での展開について理解を深めていくためには、エネルギー・係留・輸送の必要性、資金面での実現可能性、メンテナンスのコストに関してさらに調査を行う必要があります。ほかにも、マングローブ林が生育できる構造の設計や、使用する材料(海洋のプラスチック破片をリサイクルしたものも一つの選択肢である)といった重要な課題もあります。
太平洋で行われる調査研究では、ニューサウスウェールズ大学によってデータが提供される予定です。
浮く植林マングローブを沿岸のマングローブ林と置き換えることはできませんが、沿岸のマングローブ林にかかる資源圧力の軽減に役立つでしょう。この二つのマングローブを統合した沿岸管理をすれば、生態系サービスを強化できる可能性があります。さらに、「ポンツーン」(マングローブが浮かんだ状態で育つ箱船)を設計し配置することによって、通常よりも波動による影響が弱まり(波動減衰)、沿岸保護の一つの方法となるでしょう。
海水に根を下ろす木々は、大気中の炭素を隔離するのはもちろん、新たなクリーンエネルギー源として機能し、分散型エネルギー供給源として沿岸コミュニティの生態系サービスと生活を向上させる可能性があります。
この有望な技術を発展させ科学的根拠に基づくデータと知識を得るためには、いくつかの基礎研究と合わせて、プロトタイプ(試作モデル)とさらなる試験の開発が必要です。その後、バイオ燃料の生産に役立つように、より幅広く、できる限り採算が取れるくらいの適用性を目指して、この技術をさらに発展させていくことになります。
浮くマングローブの構想の実現については、「木材エネルギーの形でどれくらいの量のバイオマスが生産・使用されるのか」が重要な問題です。木材エネルギーの需要は世界中で高まっており、2021年には木片の世界市場は88億ドルとなり、2027年には131億ドルまで成長すると予測されています。同じ期間に、木炭の世界市場は50億ドルから、2027年には70億ドルまで成長する見込みです。
「どれくらいの量の炭素が隔離されるのか」についても把握する必要があります。ほかにも重要な問題として、投資コスト、設計、材料、高エネルギーの波と風からの保護、採算の可能性が挙げられます。この革新的なシステムが機能するという強固なエビデンスはすでに存在しますが、こうした問題やその他の問題への確固たる答えを見つけるために、さらに研究開発を進めるのは有意義なことです。
<参照情報>
Ocean forests: how ‘floating’ mangroves could provide ecological and social benefits
https://www.unsw.edu.au/newsroom/news/2024/04/ocean-forests--how-floating-mangroves-could-provide-ecological-a