神奈川県葉山町で2006年に発足した葉山アマモ協議会は、現在、葉山町漁業協同組合、葉山一色小学校、ダイビングショップナナ、鹿島建設株式会社葉山水域環境実験場という多様なメンバーによって構成されています。
かつては葉山にも、アマモの広大な藻場がありました。藻場は、多くの魚たちが産卵し、成長する場を提供することで、漁業を支えています。その藻場が減少するにつれて、魚の種類も少なくなっていく状況に、葉山水域環境実験場の山木克則さんたちは危機感を覚えました。そこで、友人が営んでいるダイビングショップや、仲間が子どもの頃通っていた小学校、環境に関心の高い漁師さんなどが中心となり、さまざまな人達に声をかけ、アマモ場を再生する取り組みをはじめたのが協議会発足のきっかけです。
現在、主に行っているのは、アマモ場とカジメ群落の保全です。
アマモ場の保全活動として、15年以上にわたり続けているのが、葉山一色小学校の児童による、地元のアマモ種子を用いた種苗を作る活動です。
種苗を作るだけではありません。毎年の出前授業では、昔のアマモが豊かに生育していた頃の話や、最近ではアマモが減ったことで、魚も取れなくなっているという話を、漁業者と一緒にしています。また、アマモが海中の二酸化炭素を吸収し、その一部がブルーカーボンとしてとどまることから、アマモの保全は温暖化対策に貢献することなどを、小学生は学びます。
種苗づくりは、7月にアマモの種子の選別を行います。アマモの葉につくワレカラやウミナメクジなどの小さな生き物を観察し、アマモ場が、生物の宝庫であり、魚の住処として適していることを、子どもたちも実感します。12月にはポットへの種まきをおこないます。子どもたちは自分のポットのアマモの生長を春まで見守ります。
子どもたちからは、「アマモがおんだんかのせいで無くなっていると聞いたとき、『えーっ」と思いました。だから、たねからアマモをふやすんだ。僕たちがつくったアマモが海でたくさんふえるといいな。そしておいしい葉山の魚がたくさん食べたい(原文ママ)。」といった感想文が寄せられました。出前授業の最後に、「漁師になりたい子いる?」と問いかけると、3~4名の子どもたちから手が挙がります。そうした姿を見て、山木さんたちも、「海をよくしなければいけない」と、活動継続への思いを新たにするとともに、責任の重さを実感するそうです。
こうして育てられたアマモの種苗は漁業者とダイバーによって、アマモが衰退した海域に植付けられます。2022年2月には、小学生が育てたものも含めて50ポット(約500本)の苗が植え付けられました。植え付けを行った藻場のモニタリングはダイバーと研究者、漁業者が連携して行っています。3月(植え付けから2週間後)にモニタリングした際は、50〜70センチまで花枝が伸長している様子が観察されたそうです。
カジメについては、水深5~20mに生育するカジメ群落の保全を行っています。成熟したカジメの葉を入れた網袋を設置する「スポアバック法」と呼ばれる方法を用いて、食害によってカジメが全滅してしまった海域での保全活動を進めています。アマモやカジメの植え付けやモニタリングなど、活動の様子は、フェイスブックで随時発信しています。
さらに、保全活動の一環として、毎月第二土曜日に、真名瀬漁港で小さな朝市を開催し、藻場の大切さについての啓発活動を行っています。こうした一連の活動は、子どもたちをはじめ地元の人たちが、葉山の海の現状や、藻場の重要性を知るきっかけとなっています。周辺の海域では、アマモはほぼ全滅していますが、本活動で保全している真名瀬漁港周辺では、アマモ場が維持されているなど、成果をあげています。
活動を行う中で、工夫も重ねてきました。ポットへの種まきの際は、種を真水に付けて、早く、安定的に発芽させる技術も導入しました。これにより、貴重な少ない種から確実に苗づくりができるようになりました。海への移植も、従来は、春先に植え付けを行っていましたが、最近は、高水温を避けて秋から冬にかけて行うようにしています。
今後は、現在の活動を続けるとともに、葉山の海藻・海草を後世まで残せるような管理や技術開発を行う必要も感じているそうです。こうした開発ができるのは、地域で長年海洋環境の研究に携わる水域環境実験場が関わっているからこその強みです。子どもたち、ダイバー、実験場など多様なステークホルダーを巻き込んでの未来に向けた取り組み、今後の展開を楽しみにしています。
葉山アマモ協議会(フェイスブックページ)
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